2021年になって、プライバシー保護の観点からメールアドレスを隠蔽化する動きが出始めています。そうしたトレンドがサービスの提供やマーケティングに与える影響について解説します。
メールアドレス隠蔽化の歴史
メールアドレスを隠そうとするのは昔から存在しました。これらは捨てメアドやテンポラリメールアドレスと呼ばれています。つまり、一時的にしか使わないメールアドレスであり、一定期間を過ぎるとユーザが存在しないというエラーが返ってくるものでした。
現在トレンドになっている隠蔽化メールアドレスは、表面上はテンポラリメールアドレスと同じですが、そのメールアドレス宛に送ったメールは常に転送されるようになっています。もちろんユーザ側で匿名メールアドレスを捨てれば、ユーザが存在しないというエラーが返ってくるのは同じです。
同様の機能としてはGmailのエイリアス機能がありました。これはexample@gmail.comというメールアドレスに対して、example+hoge@example.comというメールアドレスを作成できる機能です。+以降の文字は自由に決められるので、ユーザが自由にいくつでもメールアドレスを作成できるのと変わりません。このエイリアス機能を使って、サービスごとにメールアドレスを変えることで、漏洩した時のメールアドレスを知ったり、メールのフィルタリングを作りやすくなると言った利点があります。
なお、同じような機能をPosfixで実現する場合には設定ファイルに recipient_delimiter = +
と記述します。
そういった点においては、匿名メールアドレスの利用は、捨てアド的な使い方であって、あくまでもテンポラリとしての役割を担っていました。そんな中、スパムフィルタの高機能化であったり、サーバ側でのフィルタリング機能によって、そもそも不要なメールを見る機会が減り、隠蔽化の需要はあまり大きくはなっていませんでした。
メールアドレス隠蔽化の動き
そんな中、Appleによる認証機能「Sign In With Apple」がリリースされました。これはAppleが持つユーザー基盤を外部利用可能にするものですが、メールアドレスを非公開にする機能が提供されています。サービス提供側には、Appleが匿名化したメールアドレス ***@icloud.com が送られてきます。このメールアドレスはサービスごとに決まっているものであり、同じサービスやアプリで繰り返し何度も生成されるものではありません。しかし、サービスごとに異なるので、異なるサービス間でユーザの突合はできなくなっています。
Sign In With Appleで提供されるメールアドレスに対してメール送信すると、ユーザーの本来のメールアドレスに転送されます。そのため、通知やお知らせは届きます。ユーザーは任意のタイミングでメールアドレスの破棄が可能で、破棄されるとメールは届かなくなります。重要なお知らせだから、メール受信を許諾していないユーザにも届けたいと言った送信も難しいでしょう。
Sign In With Appleの後、複数のサービスで同じような動きをはじめています。
- DuckDuckGo、メールの広告トラッカーを排除する「Email Protection」サービス受付開始 - ITmedia NEWS
- Protect your privacy with 1Password and Fastmail | 1Password
- Bunsin - ブンシン で あんしん
- Firefox Relay
一部は認証とは異なる目的で使われるため、ランダムな文字列によるメールアドレスを無数に作成もできるようになっています。
マーケティングへの影響
おそらく今後icloud.comドメインのメールアドレス登録が増えていく可能性があります。登録されているメールアドレスを使った名寄せによる分析は難しくなるでしょう。また、ユーザー側の操作で簡単にメールアドレスを破棄できるので、ユーザーが存在しないというエラーが増えるはずです。エラーメールを使ったデータのクリーニングは都度行っていく必要があるでしょう。
DuckDuckGoのEmail Protectionのように広告トラッカーを削除するサービスもあり、メールが正しくユーザーのインボックスに届いたかどうかの分析も困難になるはずです。
ただしユーザーが嫌がるのはスパムメッセージの受信であったり、漏洩リスクになります。こうしたメッセージを送らないというのが最重要なポイントになるでしょう。
まとめ
プライバシー保護や匿名化はWebのトレンドになっています。この動きは止まらないはずです。メールアドレスが匿名になったとしても、ユーザーにとって有益な情報を発信することができれば、これまでと変わらないコミュニケーションが取れることでしょう。